第16回 明夫くんとテレビゲーム
(不正咬合編)
ポカーンと口を開けて
文:飯尾秀人、絵:KOUJI
「口呼吸」の原因はいろいろ
<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。明夫くんの歯並びを心配した浮江さんは、歯科衛生士の友人、良子さんに相談することにしました。
「ごめん、遅くなって」
浮江さんは椅子に座りながら、先にお店に来て座っていた良子さんに話しかけました。
「ううん、私(わたし)も今来(いまき)たところなの。それより、このお店けっこう高いんじゃないの?」
この町ではわりと有名なお店の中を眺めながら、良子さんは心配そうにたずねました。
「大丈夫、夜はけっこう高いけどランチのおすすめコースは1500円でいけるのよ。私も小学校の役員会の後に連れてきてもらってから、時々お世話になってるの」
そう答えると浮江さんはグラスの水を飲みながら、本題に入っていきました。
「それよりこの前電話で話した事なんだけど……」
「明夫くんのことね。テレビゲームばかりしてるって」
笑いながら良子さんは話し続けます。
「うちの子もいっしょよ。今まで目が悪くなるからって何回も注意したけど効果がなかったわよ。そうしたら最後には頭が悪くなっちゃったわ。フフフ」
「さとしくんは今では立派な大学生じゃない。それにひきかえうちの明夫ときたらいつも口をポカーンと開けて、覚えたことが全部あそこからこぼれ落ちるのじゃないかって不安になるのよ」
「それじゃあ、親友の浮江のために井戸端お口の悩み相談でも始めますか」
いつになく真顔の浮江さんの様子に良子さんは冗談もほどほどにして、持参してきた資料をテーブルの上に置きながら、にわか講義を始めました。
「明夫くんがよく口を開けたままでいるみたいだけど、まずその原因を調べることが必要ね。口を開けたままでいると鼻の代わりに口で息をするようになるの。これを『口呼吸(こうこきゅう)』といって歯並びの悪さと関係があるのよ」
「口呼吸?」
「そう。普段私たちは息をするのに鼻を使っているけど、スポーツをする時とか酸素が多く必要になったら生理的に口を使った呼吸もしているでしょ」
「ハアハアってやつね。バレーをしているからよくわかるわ」
「でも普段から口で呼吸する悪い癖があって、それを『口呼吸』っていうの。その中には鼻の病気に原因があって口で呼吸をする『鼻性(びせい)口呼吸』と、歯並びが悪い為に唇が開いて自然に口で呼吸する『歯性口呼吸』と、原因がなく習慣的に口呼吸を行う『習慣性口呼吸』などがあるの。明夫くんはどうかしら?」
「鼻の病気はないと思うんだけど、そういえば時々上下の歯の間に舌をはさみ込んでいるみたいな気がするわ」
「明夫くんがそうしているのをよく見るの?」
「ううん。いつもじゃないと思うんだけどあまり気にしてなかったから」
「そう。じゃあ、まず明夫くんの様子をしっかり観察する事から始めないとね」
その後二人は本当の井戸端会議で楽(たの)しい時間を過ごしました。
愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載
<はぴか情報>
不正咬合(ふせいこうごう)が起こる原因は、遺伝の他に、生まれてからの環境が原因で歯並びがくずれる場合もあります。例えば、小さいころからスパゲティなど柔らかい物ばかり食べると、あごや筋肉が発育せず歯が並ぶスペースが足りなくなります。小さいころから小魚や根菜などかみ応えのあるものを食べる習慣をつけましょう。(情報提供・愛媛県歯科医師会)