入選作品
◆ はぴか大賞 ◆
言葉の経済効率がとても良く、的確にイメージを伝えてくれる一句です。上五でいきなりあらわれる「合唱曲」の一語で、風に乗って響く音や合唱に参加する人々の存在がわかります。大きく開かれる合唱の口。緑を揺らす万緑の風は、大きく開いた口の奥歯にまで届きます。「万緑」の持つエネルギーが句の中心にしっかり据わりました。
◆ 優秀賞 特選 ◆
夜の歯磨きは毎日の大切な日課です。口の中の一番磨きにくい場所にある奥歯。歯ブラシのヘッドがうまく届きません。神経を集中して、磨こうとする「場所」を探す表情まで想像できました。星が涼しく灯る夏の夜を、今日も真剣な歯磨きの時間は過ぎていきます。
「鰐でありたし」という奇妙な願望から始まる、九音と八音のリズムで構成された破調の句。「鰐」は何度でも歯が生え替わるのだそうです。「抜歯日」に抱える憂鬱と不安が「鰐でありたい」という願望を抱かせます。吹き付ける「熱風」に立ち向かう、夏の日の通院。
◆ 優秀賞 ◆
◎小学生の部
作者にとって「歯」から連想する最も印象的な存在は、亡くなった愛猫の「歯」だったのでしょう。夏の終わりに経験した悲しい別離。「こつつぼ」にいれた小さなねこの歯の白さが悲しみの粒のように心に残ります。
まだたった「8本」の歯できゅうりを食べる小さな「弟」。「バリボリ」の勢いがなんと頼もしく愉快なことでしょう!きゅうりの新鮮な緑を次々と噛み砕く乳歯の真っ白。色彩の対比も鮮やかな一句です。
「スラー」はいくつかの音符を弧でくくる、演奏記号の一つ。音と音を滑らかにつなげる意味を持ちます。弧を描く「歯ならび」への比喩が魅力的。取り合わせた紫陽花の様々な色合いの球形も賑やかで綺麗です。
抜けそうな歯を色んな方法で抜いた句には、沢山出会ってきましたが、まさか「ラジコン」に引っ張ってもらうとは、吃驚! 一生思い出に残る「なつのあさ」。カタカナとひらがなでの表記も楽しい一句です。
◎中・高校生の部
歯並びの比喩は古今東西様々に表現されてきましたが、「ダリアの如く」は新鮮です。幾何学的に並ぶダリアの花片。それに例えられる「歯並び」のなんと美しく整然としていることか。「けり」の詠嘆も力強いですね。
「はれた歯茎」の熱が再生されてくるかのような迫力。「しずまれしずまれ」の字余りのリフレインが疼くような辛さを読み手に伝えます。入道雲も歯茎の腫れも、一向にしずまらないまま、診察の順番を待つ時間。
犬や猫がじゃれて噛みつく「甘噛み」。本気で噛んでいるわけではなくても「ちいさき跡」が残ります。中七「や」の強調で映像を明確にしたのも確かな技術。深まる夏、汗ばむ身体に残された歯の感触がリアルです。
「氷水」が「歯にしみる」のは誰もが経験のあるところですし、類想もあるでしょう。しかし「親の意見と氷水」と二つ並べることで俄然季語の鮮度が上がります。痛烈に「しみる」感触は心の裡も表して秀逸です。
◎一般の部
コロナウィルスと付き合う2020年ならではの観察。歯科検診で口を覗き込む医師は、マスクだけでなくフェイスガードもつけています。フェイスガードの奥に光る「汗」に目を付け描写できる落ち着きがさすがです。
結婚35年目となる「珊瑚婚」。かつてうっかりと魅了された「白い歯」のあの人は今隣にいて、35年目の秋を共に迎えました。「秋」は実りと成熟の季節です。「騙され」がほどよい皮肉とほどよいおのろけ。
夏のキャンプの翌朝の光景。こんな教師いるな、と納得させられるリアリティがあります。歯磨きの泡を口に残したまま、歯ブラシであれこれと指示を飛ばす「教師」。キャンプの朝の高揚と慌ただしい時間が見えます。
「歯」の一語から「千年前の木乃伊」を連想する力に驚きます。干からびた木乃伊に残る「歯」。千年前この歯の持ち主は海鼠をコリコリと噛んでいたかもしれない。作者も海鼠を噛みつつ想像を広げているのかも。
◆ ユニーク賞 ◆
◎小学生の部
歯の形を整えるために日々装着する「きょう正器具」。蒸し暑い熱帯夜だったのですね。朝起きてみると、なぜか「きょう正器具」が枕のあたりに転がっている。あらあら、という一句です。
◎中・高校生の部
歯科医師がはめている「ゴム手袋」の句はあるかと思いますが、まさかその味を詠むとは。普段味わうはずのない「ゴム手袋」が実は「甘苦い」と気づく。歯科検診の一場面を味覚で切り取る視点がユニーク!
◎一般の部
食事をしていて、一瞬、あれ?と思ったのでしょう。まさか「おれたおくば」を飲み込んでしまうとは!「鳥曇」とは、春に渡り鳥が北方へ帰る頃の曇り空。あーあと見上げる空でしょうか。