歯並びの悪化     人類進化が大きく関与

 最近噛(か)む回数が減ったため歯並びが悪い子供が増えた、ということをよく耳にします。また、一般の方向けの書籍の中にも「やわらかいものを食べると顎が小さくなり、歯並びが悪くなる」と書いてあるものもあります。

噛む回数が減ったことと人類の歯並びが悪くなったことにはやはり因果関係があります。火の使用、鍋・釜の使用、そして加工によって食べ物が軟らかくなったことが不正咬合の成立と密接に関連していることは間違いありません。しかし、これは非常に長い年月を経て起こった変化で、最近の調査・研究では短期間にあごが小さくなったという報告はありません。それでも歯並びが悪い子供が増えたと感じるのはお口の中に対する関心が高まってきたからではないでしょうか。

 ここでなぜ歯並びが悪くなるのか考えてみましょう。

人類は猿と分かれて進化する過程でまず口元が後退してきています。このことで歯のはえる場所は狭くなります。この口元の後退には言語の使用が深く関連しているようです。言語の使用は口の周りの筋肉を発達させます。このため口元が引きしまって後退した状態になります。余談ですが、口元が引き締まることにより下あごの先の部分、オトガイが目立つようになってきます。このオトガイは猿にはない人類のみの特徴です。

また人種の差も大きく影響しています。東洋人は頭の奥行きが短く、顔が長いのが特徴であり、西洋人は頭の奥行きが長く、顔が短いのが特徴です。このため東洋人は西洋人よりも歯の並ぶ部分が短くなりやすく、八重歯などの乱ぐい歯になりやすくなっています。

 ただ噛む回数の減少でここ数十年で増えた不正咬合もあります。開咬といって上下の歯が一部接触しない状態です。この状態は噛むことに関連する筋肉が弱くなってしまったことが原因と考えられています。また筋肉が弱くなることにより、うつ伏せ寝や頬杖による習慣の影響を受けやすくなり、以前と比べて顔がゆがみやすくなっています。力を加えれば、歯や顎の骨が動くように、ある程度の力が一定時間以上作用すれば、当然顔は変形を起こします。

 このように、まだはっきりしない部分も多いとはいえ不正咬合の原因には人類の進化が大きく関与しているのは間違いないようです。

 人間にとって「噛む」という行為は生来授かったものではありません。生後、訓練によって獲得される能力です。またしっかりと噛むことにより、顎も健康な発育をします。子供には大人にはない順応性があります。柔らかい物や噛みごたえのある物などいろいろな種類の食べ物を、よく噛んで家族で楽しく食事をすることが、健やかな成長のために大切なことなのです。

平成14年5月6日(月)
愛媛新聞生活欄16面掲載