◇文・飯尾秀人、絵・KOUJI
◇歯の芽生え編 第11章 初めての赤ちゃん/1 パパだってやれる
◇両親で育て守ろう新しい歯
 ◆これまでのあらすじ
 羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚した長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男昭夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。加奈さんはいま、生後6カ月の長女美代(みよ)ちゃんと帰省中。浮江さんと子育てをめぐる会話が始まったようです。
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 「お母さん、おはよう」
 朝の食卓のにぎわいがうそのように静まり返ったころ、加奈さんは羽賀さん宅の2階から、ゆっくりと降りてきました。加奈さんは半年前に無事女の子を出産して、新米ママとして現在子育てに奮闘中です。彼女は洋さんが出張中のため2日前から彼女の実家、つまり羽賀さん宅に帰省していたのです。
 「今何時だと思っているの」
 浮江さんは少し不機嫌そうな顔をして、時計の方に目配せをしました。
 「だって美代が夜泣きするから、あまり寝られなかったのよ」
 加奈さんの愛娘は洋さんが三日三晩悩んだ挙句、いつまでも愛らしくあってほしいという願いをこめて板井美代と名づけられました。板井洋さんが子供のころにムシ歯で『痛いよう』と泣いていたと加奈さんは聞かされていましたから、洋さんが自分の子供の名前を『痛いみたい』とわざと名づけたのかと疑いたくもなったのですが、似たもの同士ということで、納得したのでした。
 「美代ちゃんは、ちょっと泣いていただけじゃない。あなたが赤ちゃんの時なんて、夜中じゅう泣き止まないから、家の前の水路に何度飛び込もうと思ったか知れないわよ。それに育児ノイローゼで激ヤセしたんだから」
 羽賀さんの家の前には農業用水路が流れていました。ただ、それは幅30センチくらいの小さなものでしたから、浮江さんが入るにはとても十分な大きさとはいえなかったのですが。
 「ふーん、今じゃあ見る影もないわよね。でも美代の世話で毎日たいへんだけど、洋さんも家にいる時は相手をしてくれるから助かっているの」
 雑誌の編集をしている洋さんは、以前男性雑誌の生活面記事を担当していた時、先達の子育てについて多くの意見を聞く機会がありました。そこには仕事が忙しくて帰宅は連日深夜となり赤ちゃんの寝顔しか見られないという人、手間と時間がかかる育児だからこそ夫婦二人三脚で取り組もうとしている人、仕事では得られない価値を見出して主夫となる道を選んだ人など、いろいろな新米パパがいたのです。
 そしてその時に学んだことは、育児には仕事やレジャーでは得難い喜びや幸せがあるだけでなく、夫が乳児期に妻の苦労に共感し、時には主役として子育てすることが、その後の夫婦関係にも影響を与えるということだったのです。
 遅めの朝食と自室で身支度を整えた加奈さんは、美代ちゃんを抱いて再び台所にやってきました。
「あーら美代ちゃん、おはよう。ゆっくり眠れましたか? よかったですねー」
 浮江さんの美代ちゃんに対する態度は、明らかに加奈さんのとは違っていました。
 「そういえば『お食い初め』も終わったし、美代ちゃんの離乳はうまくいっているの?」
 『お食い初め』とは赤ちゃんに初めてご飯を食べさせる儀式で、「くい始め」「歯固め」などとも呼ばれ、生後100日のころ、生まれた子どもが一生食べ物に困らないように、そして歯が生えるほどに成長したことを祝う行事です。また、このころを境に離乳を始めればいいという昔の人の知恵も生かされているのです。
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 ◇はぴか情報
 健全な歯づくりは胎児期から。乳歯の形成は妊娠中に始まり、お母さん自身の健康や食事への配慮が、健康な赤ちゃんを産むためにも幼児の歯のためにも重要です。また歯が生えた幼児期の虫歯は、親が気を付けなくては予防できません。(資料提供、8020推進財団)