羽賀さん一家の元気ではぴか/40
第9章 日真名先生の独り言/2 
 ◇文・飯尾秀人、絵・KOUJI
 ◇医療事情編 第9章 日真名先生の独り言/2 後悔先に立たず
 ◇歯列が災害時の身元特定につながる
 ◆これまでのあらすじ
 羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。大二郎さんの予約キャンセルで一息ついた歯科医の日真名先生(ひまなせんせい)が、衛生士の良子(よしこ)さんと話しています。話題は中学生の患者、愛ちゃんの歯についてのようです。
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 「先生、子どものころはムシ歯もできやすいのですか?」
 新人衛生士の理恵(りえ)さんの質問に、日真名先生は少し考えてから答えました。
 「柔軟性があって、外からの刺激に対して何でも影響を受けやすいのだろうね。でも、練習すればよく身につくわけだから、この時期に勉強やスポーツだけでなく、ハミガキの正しい方法もしっかり覚えてほしいよ」
 歯は生えてきた時は根が未完成で、2〜3年してからできあがります。ですから、15歳の愛ちゃんも奥の歯は根の先まで完成していません。つまり、感受性が高く、ムシ歯菌に対しても影響を受けやすいのです。
 日真名先生は患者さんに対し、歯は自然治癒しないので、メンテナンスがとても重要であることを説明しています。しかし、患者さんの中には、歯が駄目になったら入れ歯を入れたらいいと簡単に考える人もいるのです。そんな時、「入れ歯は義歯とも呼ばれていて、義手や義足と同じです。腕や足が痛いからといって義手や義足を望む人がいるでしょうか? 動揺のひどい歯を無理して残すと、周囲の骨がやせてしまうから抜歯も仕方ない場合もありますが、自分自身の歯に勝るものはないのです」と先生は説明しています。
 「大人になって、もっと容姿を気にするようになっても、失われたものは戻ってこないからね。ところで愛ちゃんは何のクラブに入っているの?」
 「卓球のクラブに入っているそうですよ」
 少し笑いながら理恵さんが答えました。
 「卓球の愛ちゃんか。相手は名前を聞いて萎縮するかもしれないね」
 プロのスポーツ選手は一流になればなるほど、歯を含めた健康管理にも真剣に取り組んでいます。それは、人間工学に基づいた正しい理論に裏づけされていて、最高のパフォーマンスを引き出すには必要不可欠なものなのです。
 3人が診療室でそんな話をしていた時、突然ミシミシと診療室が揺れ始めました。
 「地震だ」
 日真名先生がそう叫ぶと、みな立ちすくんでしまいました。幸いにも揺れはすぐにおさまりましたが、先生は昨年の大地震のことを思い出しました。この地域の地震ではなかったのですが、震度7の揺れはすさまじく、建物は倒壊し、その後起こった火災により多数の死傷者が出たのです。実は大学時代の友人がその地域に住んでいて、日真名先生は安否を確認しようと電話をしたのですが、連絡がとれず数日間やきもきしたのでした。
 後日、無事を確認できた時、彼の診療所は火災を免れたのですが、周囲は焼け野原となり、診療を再開するのに3カ月かかったと聞きました。
 そして、その友人はそれからしばらくの間、火災で亡くなった多くの患者さんの身元確認に奔走しました。それは、彼の診療所のカルテに記載されていた歯列のチャート以外に、身元を特定するすべがなかったからです。日真名先生はかかりつけ歯科医の重要性を痛感しました。なぜなら、あちこちの歯科医院で治療を受ける患者さんは、そのたびに口の中の状態が変わり、もしもの時に正確な情報を歯科医院から入手できなくなる可能性があるからです。

                    
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 ◇はぴか情報
 歯による身元不明者の遺体鑑別は1985年の日航機墜落事故以来、注目されています。記憶に新しいところでは、昨年末のスマトラ沖大地震でも、個人を特定する有効な手段となりました。このように正確な情報を入手するには、特定のかかりつけ歯科医院を持つことが大事です。(資料提供 愛媛県歯科医師会)